耳と尾っぽの行方

えるち*//さんのブログ

耳と尾っぽの行方

 

獅子族の王、レイアスが初めてうさぎ姫を見たのは、戦の終わった荒野だった。

 

狼の群れを念力で吹き飛ばし、龍の背から降り立ったばかりの彼の前に、白い耳をぴょこぴょこ揺らした小さな影が立ちはだかっていた。

 

「通れ」

 

「嫌です」

 

レイアスは目を細めた。この俺に「嫌です」と言った者は、歴史上いなかった。

 

「お前、俺が誰か知っているか」

 

「獅子族の王様ですよね。有名ですもん」

 

「ならなぜ」

 

「だって、あなたの後ろに狼の赤ちゃんが三匹いるので。踏まれちゃいます」

 

レイアスは振り返った。確かにいた。よちよちと歩く三匹が、足元をうろうろしていた。

 

無言でつまみ上げ、草むらに置いた。

 

「ありがとうございます!やっぱり優しいんですね」

 

「優しくない」

 

「でも助けてくれました」

 

「…黙れ」

 

うさぎ姫は満足そうに頷いた。

 

「ルナといいます。またお会いしましょう」

 

またお会いしましょう、と言える胆力が、レイアスには理解できなかった。

 

 

 

二人が再び会ったのは、満月の夜だった。

 

レイアスの念力が暴走したのだ。山が割れ、空が歪み、臣下は遠巻きに震えていた。そこへルナが、てくてく歩いてきた。

 

「ルナ様!危のうございます!」

 

「大丈夫です、ちょっと待ってて」

 

嵐の中をまっすぐ進み、レイアスの胸に両手を当て、目を閉じた。

 

嵐が、止んだ。

 

正気を取り戻したレイアスの前に、ルナがいた。

 

「なぜここにいる」

 

「止めに来ました」

 

「なぜお前が来る」

 

「だって他の人、誰も来なかったので」

 

「当たり前だ!死ぬぞ!」

 

「でも死ななかったです」

 

「結果論だ!」

 

ルナはきょとんとして言った。

 

「怒ってるんですか?」

 

「怒っている!」

 

「よかった。ちゃんと戻ってきた」

 

レイアスは言葉に詰まった。

 

 

 

問題はそのあとだった。力を使い果たしたルナの耳と尻尾が、しまわれなくなった。

 

「耳が、出たままです」

 

「見ればわかる」

 

「どうしましょう」

 

「知らん」

 

ルナは耳をぺたぺた触って、首を傾げた。

 

「触ってみますか?気が紛れるかもしれません」

 

「……紛れない」

 

三秒の沈黙の後、レイアスはものすごく不服そうな顔でルナの耳に触れた。

 

確かに柔らかかった。

 

「何も感じない」

 

「嘘ですよね、今ちょっと顔赤くなりました」

 

「なっていない」

 

「なりましたよ」

 

「黙れ」

 

 

 

耳と尻尾は三日後に戻った。その三日間、レイアスはルナのそばを離れなかった。理由を聞かれるたびに「監視だ」と言った。

 

三日目の朝、耳がしまわれた。

 

「帰ります」とルナが言った。

 

「そうか」とレイアスが言った。

 

ルナは出口まで歩いて、振り返った。

 

「また満月の夜に来てもいいですか」

 

「来るな」

 

ルナは笑った。

 

「わかりました。でも来ます」

 

扉が閉まった。

 

レイアスはしばらく黙って、それから窓の外を見た。満月が、まだそこにあった。

 

次の満月まで、あと一ヶ月。

 

「……あの耳と尻尾を、もう一度見たい」

 

誰にも聞こえない声で、王は言った。 

 

次の配信は

15-17時だよっ♡

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